ビジネス論、大開陳! 鳩山会談

edit & text by KAIJIRO MASUDA
illustration by CHINO A

今回のゲストは、世界各国のパーソナルショッパー(出品者)から世界中のファッションアイテムを購入できるマーケットプレイス「BUYMA(バイマ)」を展開するエニグモの須田将啓さん。同社のミッションは「世界を変える、新しい流れを」。“かえる”は「Change」と「Buy」のダブルミーニングで、世界のファッションを買える(変える)BUYMA、世界の旅行を買える(変える)BUYMA TRAVEL、アメリカ圏を中心に成長しつつあるBUYMA.USの3本を軸に事業を展開しています。鳩山さんと須田さんは同い年。初対面ながら、話は大いに盛り上がりを見せました。

第二十八回

GUEST
須田将啓さん

エニグモ代表取締役 最高経営責任者。1974年生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了後、博報堂に就職。2004年、同僚の田中禎人氏とともにエニグモを設立、共同最高経営責任者に就任。ファッションがテーマのソーシャル・ショッピング・サイト“BUYMA”を成功させ、2012年東証マザーズに上場。2019年東証一部に上場。著書に『謎の会社、世界を変える。 〜エニグモの挑戦』(ミシマ社)、『やんちゃであれ!』(ディスカヴァー・トゥエンティワン社)がある。

鳩山:須田さんとは同い年ですが、はじめましてですね。この連載も28回目になりますが、実は面識のない方をゲストに迎えるのは初めてのことです。

須田:そうなんですね! お噂はかねがね伺っておりまして、こうしてお話しできる機会をいただけて嬉しいです。

鳩山:こちらこそ! シリコンバレーにいると「日本のエニグモってどういう会社なの?」って聞かれることが以前から多くて、一度お話を聞いてみたかったんです。まずはこれまでの経歴と起業された経緯を教えていただけますか?

須田:出身は茨城の水戸市で、大学入学で東京に出てきました。理工系でコンピューターのマスターを取って、マーケティングを学びたかったので博報堂に就職しました。いきなり起業する人も多かった世代ですが、今さらサイバーエージェントやライブドアには追いつけないと思って、これから差がつくのはマーケティングなのではないかと。

鳩山:ほう。

須田:何事もどれだけユーザーに刺さるかが大事で、そのことを博報堂で学びました。それで同僚だった田中と30歳の時に起業しました。

鳩山:その頃はヤフオク!が既に市場に浸透していましたよね?

須田:ええ。私たちがヤフオク!やメルカリと違うのは、扱う商品は全て新品でファッションに特化しているところ。CtoCのビジネスモデルですが、バイヤー陣は手慣れた人たちなので、偽物は10万件に1件くらいしか混じりません。これは世界的に見ても稀なことです。

鳩山:その信頼性は凄いですね。今では世界的なファッションのマーケットプレイスとしてエッセンスやファーフェッチがありますが、須田さんは圧倒的に早かったですね!

須田:正直タイミングが早すぎましたね(笑)。誰でもバイヤーになれて、写メールを使って写真を撮ってすぐ売れるみたいなコンセプトで始めたんですが、当初は出品作業が大変でした。1人500点くらい出品するイメージだったんですが、20〜30点が限界。プロダクトが出来上がるまでは自信満々だったんですが、完成度が低いのが分かって絶望を味わいました(笑)。

鳩山:最初は苦労されたんですね。でも、それは皆が通る道で、スタートアップの始め方として正しいと思います。それにしても21年1月期決算は素晴らしい内容ですね。営業利益率が42%というのは驚異的です。GMV(1)もきれいな右肩上がりですね。

須田:ありがとうございます。継続的な各機能の向上施策に加え、ビッグデータ分析(2)との連携によるマーケティング施策を展開したことで、よりユーザー満足度が高まった結果だと思っています。

鳩山:ファッションに特化したキッカケを教えてください。

須田:当初はロンドンのクラブで売っているデモテープが買えたり、花見の場所を売るとか、なんでも買えるマーケットプレイスを思い描いていました。でもそれだとコンセプトや全体の方向性が見えない。出品する側も何を出せばいいのか分からないし、買う側にとっても魅力的に見えない。当初はそういう悪循環に陥りました。

鳩山:暗中模索の中で希望の光がファッションだったと?

須田:はい。唯一リアルにCtoCで売れたのが、アバクロンビー&フィッチの香水でした。日本に進出する前で、並行輸入で爆発的に人気が高まりつつあったので、とりあえずアバクロのキーワード広告を買ってフォーカスしていきました。当時は西海岸がアツい時代で、ジューシークチュールも売れましたね。

鳩山:アバクロもジューシーも流行りましたね。今はファッションに特化されているわけですが、今後は事業を広げていく方針ですか?

須田:はい。僕は世の中に“ネクストソニー”を作りたいという思いをずっと持っていて、今後はファッション以外でも世界中がワクワクするようなプロダクトを生み出していきたいと思っています。もちろんファッションは今後も伸ばしていきますが、ライフスタイルやインテリアの分野も伸びしろが大きい。コロナ禍でいったんストップしてしまいましたが、世界中の体験が買えるバイマトラベルにも力を入れていきたいですね。

 

 

鳩山:エニグモは面白い会社という評判が以前からアメリカでもありましたが、英語で貴社の事業内容を説明するのが難しくて、聞かれたらいつも困っていました(笑)。でもハーバード・ビジネススクールのケース(3)で取り上げられたことで、その心配もなくなりそうですね。

須田:おっしゃる通りで、弊社の事業内容を英語で説明するのは非常に難しいんです。ケースができてから、外国人投資家にも事業内容が正しく伝わっていると感じます。今まで無縁だった国内の百貨店やアパレルからの話も増えましたね。

鳩山:ケースを読んで面白いと思ったのは、ここから流通総額を20倍にすると宣言しているところ。野心的なターゲットを憚らずにおっしゃる方だな、と。

須田:流通総額1兆円という目標があって、今のちょうど20倍です。内 訳はファッションで3000億円、インテリア、ライフスタイルで3000億円、海外で3000億円。あとはトラベルですね。

鳩山:海外で3000億円ですか!?

須田:そのつもりです。これまで試行錯誤してきた結果、プロダクトとマーケットがフィットしてきていて、アメリカ版BUYMAに大きな手応えを感じています。富裕層の間で話題になりつつあって、購入単価は10万円を超えているんです。

鳩山:それはすごい!

須田:ここ1〜2年はアクセルを踏んでいきたいですね。アメリカ以外でもカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、イギリスも売れていますし、アジアではシンガポールと香港も売れてきている。これらの国は今のビジネスを成長させることで、ある程度は売上が取れると。

鳩山:須田さんは根っからのデジタル畑ですが、ファッションのデジタルと店舗の住み分けは今後どうなっていくのでしょうか?

須田:双方に美点と弱点があって、今後は私たちのBUYMAと百貨店の中間のようなビジネスモデルが生まれる可能性があると思います。店舗で在庫を抱えるビジネスには限界があるし、一方でECだとユーザーでもカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、イギリスも売れていますし、アジアではシンガポールと香港も売れてきている。これらの国は今のビジネスを成長させることで、ある程度は売上が取れると。

鳩山:須田さんは根っからのデジタル畑ですが、ファッションのデジタ体験として物足りないものがある。大量に在庫を積むのではなく、良いと思ったブランドを無理のない範囲で仕入れ、足りないようなら追加するような形が望ましいと思います。

鳩山:なるほど。中国ではコマースライブが盛り上がっていますが、どう見られていますか?

須田:日本は中国と比較して母数がヒト桁足りないので、ライブにかけるコストと売上のバランスが取りにくいんですよね。日本はテキスト文化というのもあって、ブレイクしない原因はこの2つにあると思います。ユーチューバーがコマースライブでファンに売るのはレールに乗っていますが、一般の人が売るのは現時点では難しいかと。

鳩山:なるほど。今ご興味のあることを教えてください。

須田:人体の仕組みですかね。生化学(4)というやつで、これを食べたらこうなるとか、免疫がこれを守るとかを調べて実践するのが好きなんです。今では自分の体をかなりコントロールできている自信があります。私は仕組みを追求するのが好きなんです。

鳩山:根っからのエンジニアなんですね。

須田:体の中に100兆くらいの細胞や微生物があって、それが自律的に動いているから体が保たれているわけです。でも1つ1つの細胞の訴えは届かないですよね? だから自分が1細胞だとしたら、大きな組織を作って自分の声を上に届けられるようにしたいと思っています。1人では何もできないので。

鳩山:因数分解して今度は膨れた感じですね(笑)。最後に今後のビジョンとセンスの読者へのメッセージをお願いします。

須田:エニグモの目標は、10年以内にGMV物流総額1兆円を達成すること。そこに全力を傾けるので、それ以外はあまり気を使わず生きていきたいです。その数値が達成できれば、価値があることをやれているということだと思うので。メッセージというとおこがましいのですが、今はあらゆるコストが下がっていて、様々なチャレンジができる面白い時代です。だから、やりたいことがあったらどんどん行動してほしいですね。皆で楽しい世の中を作りましょう!

(1) GMV (ジーエムブイ)

Gross Merchandise Valueの略で、そのマーケットやプラットフォームで消費者が購入した商品の流通取引総額のこと。マーケットプレイス型ECモールやフリマアプリなどのビジネスで用いられることが多い指標。

(2) Big Data (ビッグデータ)

一般的なデータ管理、処理ソフトウエアで扱うことが困難なほど巨大で複雑なデータの集合を表す用語。組織が非常に大きなデータセットを作成、操作、管理できるようにする全てのものと、これらが格納されている機能を指す。管理しきれなかったデータ群を記録・保管して即座に解析することで、ビジネスや社会に有用な知見を得たり、これまでにない新しい仕組みやシステムを生み出す可能性が高まるとされる。

(3) Case (ケース)

ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)は、ハーバード大学に1908年に設立された世界最古のビジネススクールのひとつ。ケースとは同校の授業で使われる10数ページの教材で、ある組織の具体的な課題について記述されている。

(4) Biochemistry (生化学)

生命現象を科学的に研究する生物学または科学の一分野。生物を成り立たせている物質と、それが合成や分解を起こす仕組み、それぞれが生体システムの中で持つ役割の究明を目的とする。体を鍛える人が多くなったことで、近年注目されている。