ビジネス論、大開陳! 鳩山会談 田中裕輔さん

edit & text by KAIJIRO MASUDA
illustration by CHINO A

今回のゲストは、靴の通販サイト「ロコンド」の代表取締役兼CEO、田中裕輔さん。当時、史上最年少でマッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社のマネージャーに昇格し、UCバークレーでMBAを取得した経営のプロフェッショナルです。昨今は登録者数10万人越えのユーチューバーとしても活躍されていて、本音で世の中の矛盾と向き合う姿が多くの視聴者の共感を集めています。鳩山さんとはシリコンバレー時代に知り合って以来の間柄。話はアパレルECの動向から、紙とデジタルにおける世代論まで広がりを見せました。

第二十八回

GUEST
田中裕輔さん

1980年生まれ。ロコンド代表取締役社長兼CEO。一橋大学経済学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社に入社。2007年に史上最年少でマネージャーに昇格。2009年にカリフォルニア大学バークレー校経営大学院経営学修士課程修了、経営学修士(MBA)。米DeNA Global社マーケティング・製品担当上級副社長を経て、2011年にジェイド(現ロコンド)を共同創業し、代表取締役社長に就任。2017年、東京証券取引所マザーズに上場。

鳩山:田中さんと最初にお会いしたのはUCバークレーを卒業されてすぐの頃でしたね。

田中:はい、2009年です。UCバークレーへはマッキンゼーから派遣されていたのですが、リーマンショックの直後で「今帰ってきても仕事ないよ」って言われて。それで、ディー・エヌ・エーの創業者の南場智子さんにお願いして、アメリカ支社に短期間移籍して、その時にサンリオとコラボしてゲームを作らせてくださいと鳩山さんにお願いして。

鳩山:懐かしいです。

田中:あの時は未熟で申し訳ありませんでした。ゲームもあまり売れなくて(泣)。

鳩山:いえいえ(笑)。あらためてこれまでのキャリアを教えていただけますか?

田中:はい。出身は大阪で、一橋大学を卒業後にマッキンゼーに入社してコンサルタントをしていました。5年ほど働いてUCバークレーでMBAを取得し、ディー・エヌ・エーのアメリカ支社を経てマッキンゼーに戻って、2010年にロコンドを立ち上げました。

鳩山:キャリアから考えると靴の通販というのは少し突飛に感じます。

田中:バークレーでは起業家を呼んで話を聞く授業があって、靴の通販のザッポス(1)の創業者であるトニー・シェイの話に感銘を受けたんです。靴の通販にとどまらない様々なサービスを展開していて、人を幸せにしているというか、カッコいい事業だなぁと思いました。それで、ドイツのロケット・インターネット(2)から靴の通販をやろうと思っていると聞いて、ジョインすることにしたんです。

鳩山:そうでしたか!

田中:創業者は3人いて、僕は4人目の共同経営者として参画しました。最初にロケットから10億円の投資を受けたのですが、東日本大震災の影響で計画が白紙になってしまい、3人ともいなくなっちゃいました(泣)。で、引き取るならお前がやれと言われて……。

鳩山:勇気のいる決断でしたね。

田中:残されたのは10億円の借金と、毎月1億円の赤字。最初は本当に厳しかったです。

鳩山:田中さんは元から経営者を目指していたんですか?

田中:最初は経営者というイメージはなくて、留学するまではマッキンゼーでトップを目指すつもりでした。でも、それまではコンサルタントが世界一だと思っていたんですが、シリコンバレーではコンサルタントよりも自分で事業を作る奴がカッコいいという価値観があって、意識がガラッと変わりましたね。元から靴好きだったわけでもないですし、ザッポスでさえ売上高1000億円を超えるまで赤字だったことを考えれば、しんどい事業だというのも理解していました。でも、初期投資を集められれば、ビジネスとしては空いていると思ったんです。

鳩山:10年前はファッション業界のECがどうなるかわからない状況で、アパレルはサイズの問題があるから難しくて、靴の方がポテンシャルがあると言われていましたよね。

田中:おっしゃる通りです。

鳩山:2021年2月期の決算説明資料を拝見すると、売上高は100億円を超えていて、当期利益もプラスに転じていますね!

田中:商品取扱高も200億円を超え、営業利益も15億円。損益分岐点も超えましたし、一定の水準まで来た手応えがあります。でも、まだアマゾンや楽天と比べると小粒で、取扱高1000億円まで行かないと話にならないと思っています。

鳩山:コロナで巣篭もり需要が伸びたということでしょうか?

田中:いえ、むしろコロナはアゲンストです。取扱高の半数以上が靴で、コロナで靴を履く機会が極端に減ってしまったので。当社が初めて黒字化したのは上場したタイミングの5年前で、その後に広告投資を積極的に行って赤字を掘って、その効果が今出てきた感じです。

鳩山:田中さんはご自身もユーチューバーとして活躍されていますが、インフルエンサーをどのように活用されているのでしょうか?

田中:コロナで立ち止まって今後のビジネスを考えたときに、アマゾンでも楽天でも買える商品ではなく、ロコンドでしか買えない商品が必要だと思いました。最初はインスタグラマーと組んでブランドを作ったのですが、すでにレッドオーシャンで上手くいかず、その頃に偶然出会ったのがユーチューバーのヒカルさん(3)。で、1年半前に彼と組んで始めたのが「リザード」というブランドです。1週間で靴が6〜7億円売れる大ヒットになって、これは凄いぞ、と。

鳩山:ちょっと驚きの数字ですね。

田中:今は他のユーチューバーとも組んでブランドを続々と立ち上げています。それで、ユーチューブを全て知るために自身でもユーチューバーにならなければと思って、今では10万人登録を達成しました。

鳩山:すごい! 今のオーディエンスの男女比は?

田中:ロコンド全体の売上高の8割が女性ですが、ユーチューバーブランドは5〜6割が男性です。新しいユーザーも開拓できていて、他のブランドを買うお客様も増えてきています。新規開拓のチャネルとしても可能性を感じています。

鳩山:田中さんはほぼEC専業ですが、日本のアパレルはまだEC化率が低い状況にあります。店舗とECの関係は今後どのようになっていくと思いますか?

田中:アパレルのEC化率は上がっていくと思いますが、今はまだ店舗がマジョリティですよね。30年後も店舗はなくならないと思いますが、今後は店舗を配送のハブとして使うとか、ECとの掛け算で新しい形が出てくるのではないでしょうか? 

鳩山:メディアに関してはどうお考えですか?

田中:メディアと店舗は同じような立場で、広告も雑誌やテレビよりインターネット広告が増えていますよね。アナログのままだと難しくて、雑誌とECを繋ぐようなビジネスモデルが今後はもっと出てくるのではないでしょうか。

鳩山:守谷編集長はどう思います?
守谷:全くその通りですね。店舗とECは紙とデジタルと同じような関係です。でも皆がもう紙じゃないって言うけど、出演者側は紙(雑誌)に出たいって言うんですよね。WEBじゃなくて紙のほうがいいと。でも、それは考えてみたら当然かなと。目に見える形で残せますから。だからこそ、余計に中身(編集)が大事になってきますね。出版の原点かもです。

鳩山:僕自身が思うのは、僕らの世代とZ世代では概念が違うんだと。僕らは紙で育ったので、紙じゃないと嫌なんですね。漫画はキンドルでも買うけど、紙が出たら買っちゃいます。キンドルだと読んだ感じがしなくて、今週も分厚い本を何冊か買って読んでいます。これは世代間の違いが大きくて、30代くらいまでは紙で育っているから、完全にデジタルにシフトすることはないと思っています。一方で若い世代はモノに固執しないですよね。

田中:僕は漫画はほぼデジタルですが、ファッション誌と小説は紙派です。小説はキンドルだとエモくならないというか、読んだ気にならないんですよね。

守谷:やっぱ同世代ですね(笑)。田中さんにお聞きしたいのはセレクトについての考え方で、ECモールってどこも同じような商品が並んでいる印象があるんです。ユーチューバーブランドで差別化を図るのは分かりましたが、今後はどうやって他社と差別化していこうと思っているのでしょうか?

田中:消費者にとって魅力的な自社にしかないブランド、商品を揃えるのが第一ですね。それと同時に、ブランド側に選ばれるモールでなければならないと思っています。今はブランド側のモールの選別が進んでいて、クレバーなブランドであればあるほど売る場所を選ぶ傾向にあります。ナイキも自社ECの比率を高めていますし、ユニクロもモールには出さないですよね。今後はさらにモールが選別されることになるので、自社でしかないプラス要素がないと難しくなると思います。

鳩山:最後に読者へのメッセージをお願いします。

田中:僭越ながら思っているのは、今はリスクを避ける人が多すぎるということ。ヒカル君と宮迫さんのCMは蓋を開けたら大成功で、ロコンドの知名度向上に大きく貢献してくれました。一見ではリスクが高そうでも、ちゃんと分析すれば実はリスクが低いことってたくさんあると思うんです。なんとなく怖いとかじゃなくて、その怖さの原因を分析してリスクを取り除いて挑戦すれば、日本はもっと面白くなると思います。

(1) ZAPPOS(ザッポス)

Zappos.com(ザッポス・ドットコム)は、アメリカ・ラスベガスに本拠を構える靴を中心としたアパレル関連のECサイト。創業者CEOはトニー・シェイ。2009年7月にアマゾン・ドット・コム傘下に。2015年に新しい組織体制「ホラクシー」を本格的に導入して話題を集めた。

(2) ROCKET INTERNET(ロケット・インターネット)

ベルリンに本社を置くインターネット企業。2007年にザンバー3兄弟によって設立。アメリカのIT企業のビジネスモデルをコピーして、アメリカと中国以外の国で立ち上げるビジネスモデルで急成長。例を挙げると、ヨーロッパ最大のファッション通販サイト「zalando(ザランド)」は、ザッポスのコピーと言われている。

(3) HIKARU(ヒカル)

1991年、兵庫県出身。2016年3月にチャンネル「ヒカル」を開設。同12月にはチャンネル登録者数100万人を達成した。髪の色が半分黒・半分金髪という独自のヘアスタイルや、高速のマシンガントークが特徴。2021年には、Da-iCEの花村想太と「UPSTART」を結成し、エイベックスからメジャーデビューを果たした。