男のリーダーシップ 11月号

directon & text by YUJI MORIYA illustration by CHINO A

人材育成コンサルタント、守谷雄司氏による熱血マネジメント講座。今回のテーマは、「指導者よ、笑いとユーモアを身につけよ」です。人が鬱の時、その魂を救えるのは、まわりの人の笑顔です。真の笑顔とは、お笑い芸人を真似したテクニックではなく、人間としての余裕と相手を思いやる教養とセンスを兼ね備えたヒューマンスキル(愛嬌力)そのものなのです。

第99回
ユーモアは人を動かすスキル!

 今どきのビジネスマン、特に管理職と言われる人には、仕事はできて当たり前、プラス、「笑い」と「ユーモア」のセンスを身につけた人間力(愛嬌力)が必要とのこと。こりゃ大変だ。
 2年前の研修で知り合った管理職のFさん(45歳)から、そんな主旨のメールをいただいた。内容を要約すると、こんな具合だ。「我が社(大手の精密機械工業で地方の部品製造会社)では、管理職は率先してお笑いの研究をしろ! という専務命令がくだりました。オンラインで仕事をする間接部門の長は、率先して部下と仕事の報告・連絡・相談が終わったら、最後の2、3分は相手(特に若い社員)と雑談を交わし、“どんな話題を提供したら、どのくらい笑いを取れたか、その内容、回数を記録、専務に報告して欲しい”」とのことだ。
 いや、驚いたわ。働く人がコロナ禍で憂鬱な日を送っているから、企業の管理者がお笑い芸人になれってか。管理者の本来の仕事は、マネジメントやリーダーシップを執ることだが、それにプラス “笑いをとれる”愛嬌力を身につけることが評価の項目に加えられたとのこと。
 研修中のF氏の雰囲気は(二泊三日)、自らの発言は少なく、終始うつむき加減で、周囲の意見に「ハイハイ」とうなづくだけで精一杯。髪型も七三分けという昔の銀行員タイプで、いかにも生真面目で神経質そうなタイプだ。そんな彼がどんなネタを使って、どんな風に人を笑わせるのか想像もつかない。F氏は超がつくほどの生真面目人間のため、上司の「愛嬌力を持て」という言葉を真剣に受け止め、他部署の管理職を誘って、笑いの研修塾に出席した。研修塾といっても、元お笑い芸人さんが自宅を開放し開いている(といってもコロナ禍であるため、毎回3~4人の少人数限定で月2回程度)。「お笑い塾」的な会合に参加して、「笑いのツカミ」とか「笑いのメカニズム」等を学んでいるという。
 こうしたF氏の努力に水を差すつりはないが、「笑い」とか「ユーモア」とかいうものは、「お笑い塾」で「笑いを誘うヒント」や「笑わせるテクニック」を学んだだけで「愛嬌力」が身につくものなのかは、少し疑問である。そんな簡単なものではないはずだ。普段から笑えるような余裕のある(特に精神的に)生活を送っているとか、相手を楽しませ、愉快な気分にさせたいといったサービス精神があるかどうか、要は、ユーモアというものは、その人の中身、つまり、人生観や人間観と切っても切れない関係にあるものということだ。つまり、その人の人間性を表すものの一部が「愛嬌」であり、「笑い」だと思うのである。

 事実、愛嬌のある人のところには、人が自然に吸い付けられてくるが、頭が良いだけの無口、無愛想、無表情、暗い雰囲気の人には近寄りたくない(業務上やむを得ない時を除いては)というのが人情だ。「愛嬌」のある人は、人から親しまれ、愛され、この人のために頑張ってみるかという気持ちを起こさせることも可能であり、そうなれば、人に共感を与え、行動を起こさせるコミュニケーションの達人ということもできる(本人が意識している、していないはともかくとして)。特に、リモートワークで仕事をするとき、音声や映像のみの限定状態で、顔を見ながらの会話のみの頻度が増えるので、やはり表情が乏しいより笑顔であったほうがいい。
 こうした積極的な気持ちや表情が相手に届き、その好意に報いる形で受け入れられ、相手からも笑顔が返ってくるに違いない(心理学でいう好意の“返報性”である)。ところで、NHKの番組に「所さん大変ですよ」というのがあるが、そこでメインキャスターを務める所ジョージさんこそ「愛嬌力」を武器に、自然体の変顔を振りまいている代表的な人だと思う。(私の主観だが)所さんの人柄がにじみ出るユーモア精神には感心する。世間で話題を集めている硬派、軟派な話題、例えば、政治家がワイロを受け取った話とか、男性の育休問題や働き方改革や、コロナウイルスに関する問題など、多岐にわたって問題を取り上げる。所さんの凄いところは、どんなテーマでも、なごやかな雰囲気で肩ひじ張らずにアドリブを交えて、共演者と楽しくトークを展開する。
 そんな所さんの進行ぶりを見て、私が思うことは、ユーモアある人とは、真剣な話をしているなかでも、言葉を選んで笑みを誘い、柔らかな雰囲気にしていこうと努力する人であり、想像力や連想力に長け、話題を楽しいほうへ興味あるほうへと導いてくれる人であるということだ。そこにうかがえるのは、一定の高い教養と深い思慮や思いやりを兼ね備えた人間性があるということだ。
 よく会社の重役クラスの人と雑談をすると「自分の話は若い社員に人気があるらしく、笑いが絶えないんですよ」と言って、胸を張って言われる人がいるが、部下の反応はと言えば真逆の場合が多いのだ。「部長のミーティングや朝礼の話には、冗談やギャグが入って面白いのですが、何を言いたいのか分からないこともありますね。それに、笑いをとるまで何回もギャグを飛ばすので、仕方なくつき合い笑いをしています」とのことだ。
 この部長氏は、ユーモアとは、冗談・ギャグやダジャレなどとは次元が違うということを知らないようだ。聞かされるほうも忍の字で、たまったものではない。

 要するにユーモアとは、所さんの箇所でも触れたように「上品とおかしみ」の両方がいるのだ。それともう一つ大事なことは、場がユーモラスな雰囲気になるには、ユーモアを与える人ばかりでなく、広くユーモアを解せる人もいなくてはならないということだ。「真のユーモア」つまり、上品な洒落、品のある言葉のなかにおかしみを解するには、逆にそれを感じる力がいるからである。ユーモアにもレベルがある。どんなところで、どんな話にユーモアを感じるかによって、その人の品性や教養の高さを察することができるのだから、できるだけ潤いのあるユーモアが分かるようになりたいものである。
 このことについて、私もよく失敗をやらかす。私自身、ここが笑いのとれるポイントと自信があっても、受講生がポカンと口を開けているときなど、「ここで笑わないと、笑うところはない」と上方漫才師のギャグを入れたりするのだが(これはこれで、笑うことへの強制であり反省しているところだ)。
 「自分はユーモラスな人間なのだ」と自信を持った途端、逆に話しに上品さがなくなる恐れがあるので気をつけなければならない。心に余裕を持ち、相手の喜ぶことが、自分の喜びであるという心が先決だが、ユーモアを表現する語彙や言葉遣い、状況に応じた話し方にも工夫が必要だ。
 要は、真面目な話の中にも、笑いとユーモアを取り入れ、人を笑わせ、決して苦しい緊張の中に長時間人を置くようなことをしない人がいる。思いやりと気配りのセンスがある人だ。固くなった気持ちを、ちょっとした機智でほぐしてくれる、こうした会話にはなんとなく安心感がある。ムリやり笑いを取ろうとして、相手を白けさせる人に比べて、大変な違いである。
 今から数十年前になるが、ある会場で聞いた社長のユーモアに富んだ言葉を今でも憶えている。「社長は言葉が命」を信条に、“景気より天気、天気より元気、元気より人気”と、一見ユニークで言葉遊びとも思える語呂合わせを展開し、社員を惹きつけ「何度も言い続けること」が社長の大切な仕事のひとつであると。「一流の人物とは、ユーモアのセンスを持ち、人を楽しい気分にしてくれる」ということなのだ。

今月の語録

「真のユーモア」とは、「持ち前の気質・気性」であり、「思わず笑いが込み上げてくるような、温かみのある面白さ、おかしみ、上品な滑稽さ、上品な洒落」ということになる。この「思わず」というところが、ユーモアの神髄なのである。

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