ビジネス論、大開陳! 鳩山会談 渡辺裕介さん

edit & text by KAIJIRO MASUDA
illustration by CHINO A

今回のゲストは「たのしみを作る」会社として様々なコンテンツを生み出しているチョコレイトの代表取締役CEOの渡辺裕介さん。映画の脚本を練っているチームの傍で、アニメを描いている人がいたり、展覧会の準備に試行錯誤しているそばで、広告のアイデアが100個くらい並べられていたり……。そんなジャンルを超えた様々な楽しみを作る注目企業を率いるお方です。起業するまでの経緯、広告のコンテンツ化、D2Cのファッションビジネス、直感に従う生き方まで、話は大いに広がりを見せました。

第三十二回

GUEST
渡辺裕介さん

チョコレイト代表取締役CEO。1984年生まれ。2008年に一橋大学商学部卒業後、博報堂へ入社。テレビ、ラジオ、雑誌を中心とした様々なメディアのコンテンツ企画、プロモーション企画のプロデュースに携わる。2017年にチョコレイトを創業。

鳩山 渡辺さんとお話するのは久々ですが、最近チョコレイトの名前を頻繁に聞く機会が増えて、ご活躍は嬉しい限りです。これまでのキャリアから教えていただけますか?

渡辺 大学卒業後に博報堂に入社しました。広告代理店はメディアを使って面白いことができると思って、終身雇用のつもりで入りました。営業畑だったんですが、ある時コンテンツを作りに携わる経験があったんです。「安部礼司」(1)という日産自動車が提供していたラジオ番組で。元々、担当の方に「車とラジオが親和性があるのは分かっているから、とにかく面白い番組を作って」と言われてできた番組のようなのですが、この仕事が最高に面白くて、よりコンテンツ寄りの仕事をしたいと思うようになりました。

鳩山 なるほど。

渡辺 そして、そんなコンテンツ寄りの仕事が多い雑誌局に異動しましたが、なかなか⾃分が思うような仕事を作ることができず……。当時はスマートニュースやグノシー、メリー(2)などが出てきて、雑誌がウェブメディアに置き換わるみたいに言われていた時代。新聞雑誌の次はテレビということで、動画に注目が集まるようにもなっていました。それで、次のメディアコンテンツビジネスを作ることにチャレンジしたいと思い、独立を決意したんです。

鳩山 でも起業するまでタイムラグがありますね。

渡辺 はい、何も決めずに辞めたので(笑)。そこから2年くらいは妻の扶養になりました。

鳩山 奥さまに感謝ですね(笑)。チョコレイトはクリエイターを多く抱えていますが、今の会社の陣容を教えていただけますか?

渡辺 うちではプランナーと呼んでるんですが、クリエーターが30人ほど所属しています。うち半分が他の仕事と掛け持ちの業務委託という形です。加えてビジネスプロデューサーが30⼈ほどと、映像を中⼼とした制作プロデューサーがいます。僕自身はクリエイティブではなく営業畑だったので、自分がこんな会社をやっている未来なんて想像もできませんでした。チョコレイトは「世界一たのしみな会社になる」をビジョンにしていて、中長期的にディズニーや任天堂に並ぶくらい世の中にワクワクを提供できるような会社にしたいという思いがあります。

鳩山 夢がビッグですね!

渡辺 ディズニーも任天堂も今でこそプラットフォーマーですが、昔はいちコンテンツプレーヤーでした。メディア環境が変化すると新しいコンテンツプレイヤーが生まれてくると思っているので、20年後に2社に並ぶような会社になりたいです。

鳩山 おおー! 渡辺さんはコンテンツを作りたいという思いが昔から強くて、悩んでいるように見える時期もありましたが、今はスッキリ整理されている感じですね。

渡辺 その通りです(笑)。

守谷編集長 横から失礼します。クリエイターをまとめるってすごく難しいイメージがあります。

渡辺 優秀なクリエイターが集まるのは、CCO(チーフ・コンテンツ・オフィサー)の栗林和明(3)の存在が大きいですね。クリエイターは、会社のビジョンに共感してくれて同じ船に乗りたいと思っているなら、その人が正社員であろうが業務委託であろうが関係ありません。それよりも心と心で繋がっているのが大事なんです。

鳩山 こういうモデルはアメリカだと珍しくはないんですよね。様々なクリエイターがいるので、チョコレイトはコンテンツが多彩です。

渡辺 僕はどんなコンテンツでも作れる会社が究極に強いと思っているんです。でもデジタルコンテンツは無料で享受できるというイメージが強くあって、マネタイズポイントがあまりないのが難しいところで……。

鳩山 で、広告に向き合ったと。

渡辺 はい。広告をコンテンツ化して、企業と一緒に企業コミュニケーションを面白くしていこうと。SNSの時代は広告自体が面白くないとスキップされてしまいます。企業のコミュニケーションは、イベントや映像、アプリゲームまで様々な形態がありますが、それの全てを作ることができるなら、クリエイターの打席数は飛躍的に増えます。打席も用意できるし、かつ企業からお金を頂くビジネスとしても成立する。その仕組みを戦略的に作りました。

鳩山 すごく真っ当な戦略ですね。デジタル企業はなんだかんだ広告の売り上げが大きかったりするので、そこは遠回りしてもご自身の強みを活かせているのかなと思います。

渡辺 最初は広告じゃなくて、オリジナルコンテンツの会社を作ると意
気込んでいたんですけどね(笑)。

鳩山 Netflix の年間コンテンツ予算は2兆円で、Amazon も1兆円。でも日本のテレビ局は、大手でも800〜900億円ほどです。それを考えると、日本では広告を原資にしたコンテンツ作りが現実的ですね。

守谷 広告主の感度を上げていくためにしていることがあれば、ぜひ。

渡辺 それは本当に難しくて、今までのマーケティングの文脈だと、商品の機能や世界観を可能な限り盛り込むことを求められがちです。最初はこの時代のコミュニケーションはこうなっているということを、かなり意識して伝えてきましたね。

守谷 なるほど。

渡辺 でも、事例がなければ何の説得力もありません。創業期からお付き合いいただいたソフトバンクさんや、社是が「やってみなはれ」のサントリーさんが、広告をコンテンツ化していくことに共感してくれて、自由に作らせていただけたのが大きかったと思います。それが看板事例となり、クライアントに理解を頂きやすくなりました。

鳩山 今では面白いコンテンツを作りたいならチョコレイト、のイメージが確立しつつあります。

渡辺 ありがとうございます。チョコレイトはコンテンツ起点で面白いことをやっていく会社です。自社IP(4)としてキャラクター作りもしているし、D2Cでアパレルブランドもやっていますし、広告を「たのしみな」ものにして行くと言う意味で広告事業もやっていますと。ベースに楽しいものを作るというのがあるので、総合広告代理店の期待値とずらすことができるんです。

鳩山 佐藤可士和さんとか個人 でやってらっしゃる方はいますが、集団だとチョコレイトが光りますね。

渡辺 ありがとうございます。マスの時代は刷り込み浸透ができましたが、今の時代はSNSのクチコミという言葉に乗ることが大事。個人のメディアのタイムラインという編成に乗せてもらえるかが大事なんです。

守谷 共感しかないですね。

鳩山 個人のメディアの編成に乗るという言葉はすごい面白いですね。ファッションに話を移したいと思いますが、渡辺さんにとってファッションはどういうものでしょうか?

渡辺 弊社とファッションの相性はいいと思っていて、ファッションを中心にD2Cの事業を行っています。今は商品が機能では差別化ができない時代。背景にあるストーリーと打ち出し方が、差別化要因として大きくなってきています。

鳩山 具体的には?

渡辺 大きく言うと2つあって、ひとつはタレントやインフルエンサーとのブランド作り。今やってるのはアパレル、ジュエリー、下着でアパレル中心です。この5年は個人がメディアになる時代でしたがが、今後は個人がメーカーになる時代。もうひとつは、商品力や技術力は高いのに打ち出し方が苦手なブランドの企画プロデュースです。

鳩山 アメリカではセレブリティがブランドを作る例は多くあって、ドクター・ドレーのビーツや、カイリー・ジェンナーの化粧品などが代表的な成功例ですよね。ただ事業規模が大きい成功例は、ちゃんとその業界のパートナーがいます。一方で個人のブランドもどんどん出てきていますね。数億ぐらいまではポーンといくこともありますが、それが続くかどうかは怪しい。ファッションはサイクルがあるので、長く続けるのは簡単じゃありません。

渡辺 その難しさは感じています。だから組む人のファッションへの本気度を重視してます。タレントさんにはファンが付いているので、いきなり売れるんです。でもそれはグッズ的な要素で、それを本当にブランドがいいから買うというところまで持っていきたいです。

鳩山 最後に読者のメッセージをお願いします。

渡辺 自分の直感に従って生きて行くと自分らしい生き方になるし、生きがいを感じられる仕事に出会えたりします。自分の心に素直になると人生が楽しくなるし、想像していなかった自分になれるということを、会社を辞めてからの6年で感じています。センス社じゃないですが、肩の荷をおろした生き方が今の時代には合っているのではないでしょうか。

(1) Average (安部礼司)

正式名称は「NISSAN あ、安部礼司~ beyond the average〜」 。日産自動車一社提供のラジオドラマ。TOKYO FM制作・JFN系38局ネットで、放送時間は毎週日曜日の17:00〜17:55。2006年にスタートし、現在16シーズン目の人気番組。

(2)MERY (メリー)

ディー・エヌ・エーの子会社、ペロリが運営していたキュレーションプラットフォーム。2016年までに月刊ユニークユーザー数2000万を超え、若い女性の間で爆発的な人気を集めた。同年、記事盗用問題で公開を停止。2017年に小学館とディー・エヌ・エーの共同出資により新会社MERYを設立し再始動した。

(3) Kazuaki Kuribayashi(栗林和明)

チョコレイト取締役CCO(チーフ・コンテンツ・オフィサー)。1987年生まれ。10万本を超える映像の分析を基にして、番組や空間、商品、レーベル、ボードゲームなどを企画。JAAAクリエイターオブイヤーの最年少メダリスト。米誌Ad Age「世界で活躍する40歳以下の40人」で、アジアから唯一選出された。

(4) I P(アイピー)

IPとはIntellectual Property(インテレクチュアル プロパティ)の頭文字をとった略称であり「知的財産」のことを指す。自社IPとは自社もつ知的財産=自社が作ったキャラクターやタイトルのこと。