ミスターセンス幹田の男道WOLF’S HEAD

direction by SATOSHI MORIYA
photography by FUMIHITO ISHII
text by SHUNSUKE HIROTA

今年で30周年を迎えて、ますます勢いを増すウルフズヘッド。本誌で最も長い連載を持つ盟友である幹田卓司氏のもとを訪れ、アニバーサリー企画展の話から次に控えるコラボレーションまで、30年目の“今”について話を伺った。

Part1
Blacksense

モノトーンで引き締めた
スパイダーウェブの造形美

シャツ、パンツともに価格未定/ともにワコマリア×ウルフズヘッド×ブラックセンス(ともにザ・ブラックセンス・マーケット)、ブレスレット¥237,600〜/ウルフズヘッド(ウルフズヘッド)

毎回人気のワコマリア×ウルフズヘッドのオープンカラーシャツを、ブラックセンス別注モデルではモノトーンで再構築。ベースとなったアイテムはカラフルなカラーリングが魅力だったが、敢えて黒にすることで幹田氏がグラフィックを描いたスパイダーウェブの輪郭が強調され、シャープな1着に仕上がった。

本誌限定のスペシャル
オーダーアイテム

今後も注目ブランドとコラボレーションが次々と予定されているウルフズヘッド。その詳細については決定次第本誌でお伝えするが、実はブラックセンスでも別注企画がスタート! 
その詳細を本邦初公開でご紹介する。

素材と染めで表現する
様々なブラックの表情


幹田氏が着用したシャツとロカパンはワコマリアとウルフズヘッドが作る人気&定番のアイテム。今季は幹田氏がオリジナルで描いた蜘蛛の巣を全面にセットしているが、ブラックセンス別注モデルでは白生地に黒をオーバープリントするだけでなく随所に黒のプリントで蜘蛛の巣模様を表現するなど、モノトーンのなかに陰影を持たせている。ロカパンはもともとウルフズヘッドのオリジナルブランド、トラッシュヘッドから幹田氏がリリースしていたモデルをもとに、ワコマリアが新たに製作を担当。別注モデルではサイドの切り返しに黒のベロアを配し、どことなくタキシードパンツのような品すらも感じる仕上がりとなった。

シャツの生地になる前の貴重な手描きグラフィック!

Part2
Exhibition

現代のシャツとして蘇った
大正~昭和初期の長襦じゅばん袢

100年以上前のアンティーク着物生地から仕立てたシャツを展示した企画展『ROCK OUT!』。約1ヶ月に渡って開催され、初日から並びが出るほどの盛況ぶりだったが、ここでは現地を訪れられなかった人のために、その一部を紹介しよう。

杉板模様のベースに将棋や腕相撲、首相撲などの勝負事に興じる骸骨が描かれた生地を使用。基本的に1枚の襦袢や羽織裏の生地から1着のシャツを仕立てることが多いが、こちらはフロントと袖&バックで異なる生地を組み合わせている。

野晒しとほおずきが描かれた生地を使用。ほおずきの意味は対談本文にて確認を。

歌い踊る骸骨と遊女を描いた生地を使用。骸骨模様は地獄太夫をはじめとした花魁が好んだ柄でもある。

Part3
Collaboration

デザイナーを魅了する
ウルフズヘッドのスタッズ

緻密な計算と大胆な発想で施されるスタッズワークによって、定番アイテムの新たな魅力を引き出すのがウルフズヘッドの真骨頂。英国パンクを代表するドクターマーチンとの合作にも、そんな幹田氏の独創性が存分に現れている。

改めて英国製のドクターマーチンの魅力を伝えたい、というブランド側の意向を受けて製作した、8ホールと3ホールのスタッズカスタマイズ。「左右でスタッズの配置を変え、敢えて靴紐用の穴をスタッズで埋めることで靴紐も不規則に結んで履いたり、アシンメトリーなバランスにしています」と幹田氏。シュータンのタグもスタッズで留められている。詳しくはブランドHPを随時チェック。

特別対談
幹田卓司×守谷 聡

SENSEが創刊して間もない頃から公私に渡って付き合いのある、幹田氏と本誌編集長 守谷。30周年記念の企画展でディスプレイしたシャツへの想いからはじまり、今のファッション業界のものづくりまで話は及びました。

守谷 卓司君の連載が始まって12年以上経つけど、あの連載はそろそろ一冊にまとめて本にしますので。それはそうと、8月に30周年記念の展覧会をやったじゃない?まずはその話を聞きたいんだけれど、企画展のタイトルだった『ROCK OUT !』には、どんな意味が込められていたのかな、と。

幹田 「行くぞ!」とか「やるぞ!」って意味もあるし、コロナの自粛期間だったからLOCK OUT とも掛かっているし。今年で30周年だから、ギャラリーに思い入れのあるものを並べたかったんだよね。それだったら自分で趣味として作っていたシャツを見せたいな、って。

守谷 そもそも何年前からシャツを作っていたの? ものすごく古い生地を使ってたみたいだけど。

幹田 今回展示したのは大正〜昭和初期ぐらいの生地がメインで、どれも長襦袢(じゅばん)っていう着物の下に着る肌着や、羽織の裏地として使われてた生地だね。

守谷 色々な柄があるなかで、スカルを選んだ理由は?

幹田 20年以上前に着物の生地でドクロの柄があることを知って、少しずつ集めはじめたんだよね。ドクロって“死”や“毒”や“危険”ってイメージがあるじゃない? だけど、それって西洋の感覚なんだよね。逆に日本では昔からドクロは縁起物というか、前向きなイメージで捉えられていたらしい。侠客の羽織裏や武将の鎧に使われたりしてるのは「決死の覚悟でやる」とか「死んだら骨になるだけ」とか「骨になったら蘇るだけ」みたいな意味が込められていて、勝負事に対する願掛けの意味もあったみたいだね。

守谷 ガボールのスカルや河鍋暁斎のドクロもそれぞれ違う魅力があって良いし、企画展のシャツに描かれていたスカルも様々なタッチだったよね。スカルって集め甲斐のあるモチーフなのかもね。だけど、そもそも生地ってどうやって手に入れているの? なかなか手に入らないでしょう。

幹田 ドクロ柄はレアなものだけど、身内に京都の有名な骨董商がいるから。ドクロ柄はもちろん、いい柄の生地は日本中からその骨董商が集めてくれている。今の時代にそういう生地を集めるだけでもものすごく難しいことだし、それを一枚の長襦袢や羽織裏から柄ゆきを考えながらシャツに仕立てるのも大変な作業。今回は63枚だけ展示したけど、全部で370枚あるから。

守谷 企画展に出したなかでお気に入りのシャツは、あのドクロとほおずき柄のシャツ? それにしても、あれは何故ほおずきが描かれているんだろう?

幹田 ほおずきはお盆の迎え火や提灯と同じで、先祖が帰って来る時の目印なんだって。だからお盆に仏前に供えるんだよ。

守谷 柄ひとつとってもストーリーがあるんだね。いまって技術が発達しすぎて何でもデジタルでパッと作れるようになったぶん、逆に惹かれなくなったじゃない?僕がヒスやテンダーやウルフズヘッドを好きなのは作っている人にカルチャーがあるからだけど、そうじゃないものが増えすぎてしまった。企画展のシャツは作り手の息づかいが感じられるし、模様のひとつひとつに意味が込められていて奥行きがある。

幹田 スカルものを集めてるだけなのに、だんだんとそこに付随する情報が入ってくるんだよね。ドクロは遊女の魔除けだったとか、ほおずきはお盆の迎え火の代わりだったとか。それが面白いよね。

守谷 今回の企画展を通じて伝えたかったことってなんなの?

幹田 ひとつは日本の正絹(しょうけん)の良さ。縮緬や羽二重みたいに当時の糸や織り方も違うし、ドクロの描き方も手描きから抜染、織りから絞りまで色々あるわけで、とにかく技も手間も段違いですごいんだよね。最初1〜2年は金もかかるし仕立てたシャツを店で売ってたんだけど、すぐに「これは売るもんじゃねぇな」って気づいてやめた。

守谷 その頃に買えた人はめっちゃラッキーだったね。

幹田 今回も欲しいって人は沢山いたよ。売らないけど。

守谷 これですよ(笑)。超最高。企画展はコム・デ・ギャルソンの川久保玲さんやポータークラシックの吉田克幸さん、カメラマンの操上和美さんみたいに、ファッション業界のすごい人たちも観に来たんだってね。

幹田 色々な業界の大御所にも足を運んでもらえて、本当に光栄な話だよね。それに企画展をきっかけにスタートしたプロジェクトもあるし、現在進行形のコラボも幾つかある。好きなことしかやっていないけど、とにかく忙しい。

守谷 しかも今回展示したのは300枚以上あるなかの、わずか63枚だもんね。またどこかのタイミングで企画展はやるの?

幹田 もちろんまた違った形で。今度は自分の革ジャンを並べたりもしたい。

守谷 卓司君は古着の知識も世界屈指だけど、収集にかける熱量もすごいじゃない? その熱意って一体どこから来るの?

幹田 よく「色々なものをたくさん持ってる」って言われるけど、俺は集めてる範囲も狭いし、持ってるのなんてごく一部だよ。

守谷 純粋に好きなものを集めていたわけで、20年前からこういう展示をしようと思って集めはじめたわけじゃないしね。

幹田 うん。だからシンプルだよね。革ジャンだってガキの頃から着てて「やっぱちげぇなぁ」とか言ってただけで、その頃は別に集めようと思っている訳ではなかった。だけど21歳から店をやってて買い付けに行くと「こんなのもあるんだ」って感動して、店には置かずにサンプルとして取っておいたりしてたね。買い付けにしても自分が作るものにしても、欲しいものしか店に置かないってのは一貫している。だから投資目的みたいなノリではデニムも集めてないし、ハワイアンシャツも集めてない。だから、結局ヴィンテージに関して俺が持ってるものや知ってることは本当にごく一部だよ。

守谷 話しは変わるけど、この歳になるとだんだん興味の方向が骨董だったり焼き物だったり、日本文化のなかでもそっち方面に行くのは何故なんだろう( 笑)。

幹田 実際に俺も集めてるしね。今回の企画展は日本の着物生地がメインだから、ショーケースに入ってた焼き物や木工品は江戸時代ぐらいからオキュパイドジャパン(アメリカ占領期の日本)の頃までの日本製だけ。その他ドクロものだけで何万点ってあるから。

守谷 ドクロ柄のシャツに限らず、コレクションはどれも貴重なものばかりでしょ。卓司君がもし死んじゃったらモノの行き場が無くなって大変だろうし「博物館に寄贈してくれ」とか決めておいたほうがいいんじゃない?

幹田 さっきのドクロの意味じゃないけど「死んだ後なんか知らない」だね。先のことなんか考えてたらカッコ悪いでしょ、むしろ「生き返ってなんとかしてやる」ぐらいの気持ちでいないと。

守谷 さすが(笑)。その調子で次の30年も頑張って下さい!

「作り手のバックボーンが込められた服が好き。ウルフズヘッドのアイテムからは卓司君のカルチャーやストーリーが伝わってくる」
│守谷 聡

「好きなものしか持たないし着ないし、店でも扱わないし、作らない。企画展で展示したシャツは売るわけじゃなくて好きで作っていたもの。つまり、好きなことしかやらないことの象徴」
│幹田卓司